製造業DXグランドデザインの重要性 ~新しい付加価値を生むためのDX成功のカギ~
- 2025年12月24日
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日本の製造業DXは広がりを見せていますが、依然として「効果創出」に課題があり、欧米に比べて遅れを取っています。
DXの本質は、デジタル技術を活用して新たな価値を創造する取り組みであり、単なるIT化や効率化ではなく、競争優位を築くための経営戦略です。
新たな付加価値を生むDXを実現するために重要なポイントは何か、そしてどのように進めていくべきについて解説します。
目次
レガシーシステム刷新は依然として喫緊の課題
ブラックボックス化されたレガシー基幹システムは長年にわたり問題視されてきましたが、投資、リソース、業務インパクトなどの面から多くの企業はレガシー刷新に踏み切れずにいました。
しかし2018年に経済産業省が「2025年の崖」問題を提言して以降、各社は本格的に対応へと動き始めました。
新しい基幹システムとして選択されるグローバル標準のERPは、企業規模によって導入期間は異なるものの、グローバルに拠点を持つ製造業では構築に12ヶ月~18ヶ月を要し、実業務に合わせたカスタマイズを加えればさらに長期化するケースも少なくありません。
現在、刷新を完了した企業も現れている一方で、移行途上の企業も多く、事態は依然として喫緊の課題であり続けています。
「ERP導入=DX」で進めてしまう失敗
製造業にとって基幹システムの再構築は最も大きなIT投資となります。
この差し迫ったレガシー刷新のタイミングを活かしてDX投資を確保しようとする企業は多いでしょう。
しかし、レガシーシステムの刷新だけを目的に進めると単なる業務のデジタル化で終わり、顧客への付加価値提供や競争優位の確立という本来のDXは実現しません。
グローバル標準のERPシステムを導入する際、コンサルタントの支援を受ける場合もありますが、多くは「経営指標の一元化、見える化」がゴールとなります。
グローバル企業において経営判断のための財務指標やKPIの見える化は重要です。しかし、それ自体は顧客に対して付加価値を生みません。
それどころか、現場では入力作業が増え、業務負担が拡大する場合もあります。
製造業において顧客価値を生み出すための重要なデータは「製品のデータ」です。
この「製品データ」はERPでは管理できないため、周辺システムに存在します。
したがってERP単体の導入に留まらず、周辺システムを含めた全体的なシステム設計とデータ活用のリデザイこそが製造業のDXの肝となるのです。
この点を踏まえ、日本の製造業が実現すべきDXとはどのようなものか、そこで重要となるグランドデザインをどう進めていくべきか次の章で解説します。
日本のものづくりの強み(=複雑性)とDXの課題
2000年にOPECに加入する主要国の中で労働生産性がトップだった日本は、2018年には19位に後退し、その後も17~19位で低迷を続けています。
生産性向上の方策は、業務の省力化、効率化による労働投入量の削減か、製品・サービスの収益を高め付加価値を増やすかの二つです。
総務省の指標によると、ICT投資の効果が高いのは「付加価値を増やす」テーマであり、「労働投入量の効率化」テーマの2倍以上の効果があるとされています。

日本の製造業は「カイゼン」を通じて労働投入量の効率化を大きく進めてきました。人口減少とともに人材不足が深刻化している現在、人に依存した組織力の維持・向上による効率化はすでに限界に達しています。
繰り返し単純作業に対しては自動機やロボットを導入し、自働化・省人化を進める必要があります。IT・IoT・ビッグデータ・AIを活用した生産工程の合理化も不可欠です。
繰り返し作業やデータ処理、または重労働や危険な作業では、先進ツールの積極的な利活用による自動化・省人化が期待されています。
一方、ICT投資の効果が高い付加価値向上の取り組みについてはどうでしょうか。ICTを活用することで、日本の製造業の強みを付加価値に転化できているでしょうか。
日本の製造業が得意とするものづくりは、標準化・汎用化された部品やユニットの組み合わせで生産されるモジュラー型製品ではなく、技術のすり合わせを必要とするインテグラル型製品にあります。
「経済複雑性指標」(=生み出したモノの知識集積度、モノを生み出すための能力の指標)において日本は25年間世界1位を維持し続けていることからも、知識移転が難しい複雑性の高いものづくりが強みだと言えるでしょう。
しかし、ITは複雑性をコントロールすることを不得手とします。
ITは情報をデジタルに変え、コンピューターを使って人には不可能な速度で伝達し処理します。
そこでは曖昧さを徹底的に排除し、情報はデジタルに特定されなければなりません。
インテグラル型製品の場合、受注製品の全パターンを品目コードで登録しておくことが必要になりますが、仕様の組合せによって異なる膨大な数のバリエーションを全て登録しておくことは不可能です。
つまり複雑性とITとは相性が悪いのです。
インテグラル型のモノづくりには、属人性が高い業務が多く残っているのはそのためです。

複雑性をコントロールするデジタルスペックマネジメントとは
日本の製造業の強みである複雑性をコントロールするには、ものづくりの思考プロセスをデジタル化する必要があります。
インテグラル製品のものづくりは次のように進みます。
・ 営業は、顧客要求に対して提案する製品仕様と価格を提示する
・ 技術は、製品仕様に対して設計仕様や寸法など、製品属性データの変更を決定する
・ 製造は、図面や設計仕様に対して製造仕様を変更する
初めから品目や品番といった「モノ」の情報が存在するのではなく、顧客要求~機能仕様~設計仕様~製造指示へ、「スペック(仕様・性能)」情報を人が思考して変換することで最終的に製品=「モノ」が完成します。
いきなり製品=「モノ」のデータ整備から始めるのではなく、この思考プロセスのロジックをデジタル化し、営業から製造へ流れを構築することが不可欠なのです。
その流れの中で生成される品目、品番、BOM、工程、品質、メンテナンスなど製造業にとって付加価値を生む重要なデータを「スペック」情報に紐づけ、モノづくり全体の流れをマネジメントする仕組みを我々は「デジタルスペックマネジメント」と呼んでいます。

グローバルスタンダードのERPは管理会計の考え方に基づき、事業や部門単位でセグメントを切り、原価分析に必要な費目に合わせて、品目コードのQCDを管理します。
顧客に付加価値を提供し競争優位を確立するという本来のDXを進めるためには、製造業が取り扱うデータ全体を管理する必要があります。
しかしながら、付加価値を生む重要な製品データ群は管理会計の枠外に存在し、ERPの外側で管理されているのです。
デジタルスペックマネジメント」の仕組みはERPの周辺システムとして構築する必要があります。
顧客からの要求仕様が変更された際に、どの部品に影響が及び、どの工程に変更が発生するかを把握し、その情報をどのシステムで処理し、ERPにどうインプットするのかを定義しなければなりません。
ここがDXにおいては最も重要であり、同時に工夫を必要とする難しいところです。単なるレガシーの置換えで終わるのか、顧客への付加価値を生み出すDXを実現するのか――その分岐点となるのです。
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製造業DXの成功の鍵となるグランドデザイン
ここまで、製造業のDXは、取り扱うデータの中で価値を生む主要なデータをどのように配置し、システムの全体像をいかにリデザインするかということの重要性を説明してきました。
DX=ERP導入と位置づけ、ERPパッケージとレガシーシステムとの機能のFit&Gapから始めてしまうと、それは既存業務の継続に過ぎず、真のDXとはいえません。ここでDX成功の鍵として重要となるのが「グランドデザイン」です。
「グランドデザイン」は、経営戦略・事業戦略に中長期的な視点で沿った改革構想を策定し、「ビジネス」「業務」「システム」「データ」が有機的につながる仕組みをデザインして、実行計画に落とし込む。ーーDX実現に向けた全体像とロードマップなのです。
DXグランドデザインでは、「改革構想策定」「システムマップグランドデザイン」「短期施策・フィジビリティスタディ」の3つのタスクがあります。これらは次のステップである「業務」「システム」「データ」各レイヤーの改革実行において主要なタスクとなります。

【改革構想策定】
改革構想策定では、まず業務改革シーンの洗い出しを行います。ここで注意すべきは、現状の課題を並べることから始めると、改善レベルの施策で終わってしまうという点です。
中期経営戦略や事業戦略に掲げたゴールを達成するために、あるべき業務や組織の姿を描き、その姿と現状業務のギャップを施策に落とすことで改革を構想する必要があります。
あるべき姿は経営視点の発想が不可欠で、経営層、マネジメント層で議論することが求められます。
さらに、外部コンサルタントに支援を依頼する場合は、製造業の業務や課題を熟知し、経営視点からの仮説と知見をもって広い視野であるべき姿に導いてくれるパートナーを選ぶことも重要です。
【システムマップグランドデザイン】
システムマップグランドデザインでは、業務変革シーンに基づき、付加価値を向上させるデータを取り込んだシステムおよびマスタの配置を設計します。
既存の基幹システム及び周辺システムに対してマスタの配置を整理し、新しいシステムに再設計することが求められます。
その際、デジタルデータとして不足している情報を明確にし、新しい全体像に組み込むことも忘れてはなりません。
スペックマネジメントにおけるデータやマスタレベルでのグローバルスタンダードは存在しません。
なぜなら、スペックデータの流れこそが製造業各社のノウハウであり、競争優位の源泉だからです。
技術計算など複雑なロジックを組み込むことができるコンフィグレータの仕組みにより、要求仕様を製造に渡し、スペックを変換して製品として具現化します。
スペックデータの流れをマスタとしてどう設計するかが、システムマップグランドデザインの肝となります。
【短期施策・フィジビリティスタディ】
システムグランドデザインで描いた、スペックマネジメントを実装するシステムをアジャイル手法で実現性検証するのが、短期施策・フィジビリティスタディです。フィジビリティスタディはシステムグランドデザインの全体を描く前に一部システムで試行検証することも可能です。
スペックマネジメントを実装するシステムとしてコンフィグレータを位置づけ、コンフィグレータの標準テンプレートやSaaSアプリケーションを用いてアジャイル手法に小さく使いながら育て、業務変革の具体性とデータの実現性を検証します。
構想段階からいきなり実行フェーズの業務要件に移行するのではなく、より、具体性と実現性を伴った形で進めることが可能になります。
以上が製造業のDXグランドデザインを進めるうえでの、重要なタスクとポイントです。
グランドデザインは、業務改革やシステム導入を実行に移す前に構想や計画を策定するだけでなく、改革の目的、将来のあるべき姿、改革全体のアプローチを明確にすることで、関係各所を巻き込みプロジェクト全体が同じ方向を向いて改革を進めるための基盤でもあります。
ここで最も重要な要素はトップの合意と巻込みです。社長や経営層が改革の必要性を理解し、プロジェクトの状況を常に把握しながら後押しをすることで、プロジェクトメンバーは推進しやすくなりモチベーションも高まります。
さらに、活動範囲を決めて進めることも不可欠です。部門ごとのデジタル化の活動を単純に積み上げるのではなく、DXの活動状況や投資余力に応じて既存の成果と未達領域を取捨選択し、優先順位を決めて進めます。
無理のない計画で成功体験を重ねることが、DXという大規模プロジェクトをとん挫させずに実現へと導く鍵となるのです。
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